全脳科学帳

これを好む者はこれを楽しむ者に如かず

廊下を曲がれる棒の長さに関する問題

高校の時に目にした数学の問題で、ずっと印象に残っているものがあった。多分「大学への数学」かその別冊に載っていたのだと思う。自分で解いたことはなかったし、答も全く覚えていなかったのだが、最近ふと思い立って、ちょっとカンニングしながらも解を導くことができた。日本語のサイトで解法を書いてあるページを見かけない(答を書いてあるページはあるが)ので、ここに書いておく。

問: 幅aの廊下から幅bの廊下へ直角に曲がる曲がり角がある。この曲がり角を水平に持って曲がれる棒の長さの最大値を求めよ。

図のような曲がり角を通っていくことのできる棒の長さは最大どれだけかという問題である。

【解答】
曲がり角をギリギリで曲がろうとすると、下図のように棒の両端A, Bを壁につけ、途中を曲がり角Cに当てた状態で動かすことになる。動かしている間中ずっと棒は廊下におさまっていないといけないから、このような状態で棒の長さを可変と考え、棒を傾けていったときのABの長さの最小値を求めればよい。

角OBAをxとすると、棒ABの長さはxの関数l(x)で表せる。a = AC \cos xb = BC \sin xであるから

  •  l(x) = AC + BC = \frac{a}{\cos x} + \frac{b}{\sin x}

求める長さは、0 < x < \frac{\pi}{2}の範囲でのl(x)の最小値ということになる。
l(x)導関数を求める。(\cos x)' = - \sin x(\sin x)' = \cos xと関数の逆数の導関数の公式(\frac{1}{f(x)})' = - \frac{f'(x)}{(f(x))^2}から、

  • l'(x) = \frac{a \sin x}{\cos^2 x} - \frac{b \cos x}{\sin^2 x}

0 < x < \frac{\pi}{2}の範囲では\cos x\sin xは常に正で、x0に近づくとき\cos x1に、\sin x0に近づく。x\frac{\pi}{2}に近づくとき\cos x0に、\sin x1に近づく。したがってx0に近いときl'(x)は負になるからl(x)は減少し、x\frac{\pi}{2}に近いときl'(x)は正になるからl(x)は増加する。途中l'(x) = 0となるx\thetaとすると、そこでl(x)は最小となり、求める長さはl(\theta)である(このあたりは増減表を書いてみるとわかる)。

  • l'(\theta) = \frac{a \sin \theta}{\cos^2 \theta} - \frac{b \cos \theta}{\sin^2 \theta} = 0
    \Rightarrow \frac{\sin \theta}{\cos \theta} = (\frac{b}{a})^{\frac{1}{3}}
    \Rightarrow \cos \theta\, :\, \sin \theta = a^{\frac{1}{3}}\, :\, b^{\frac{1}{3}}

よってx = \thetaのとき、OB = AB\cos \theta, OA = AB\sin \thetaであることとAB^2 = OB^2 + OA^2を使って

  •  AB\,:\,OB\,:\,OA = \sqrt{a^{\frac{2}{3}} + b^{\frac{2}{3}}}\,:\,a^{\frac{1}{3}}\,:\,b^{\frac{1}{3}}

したがって

  • \cos\theta = \frac{OB}{AB} = \frac{a^{\frac{1}{3}}}{\sqrt{a^{\frac{2}{3}} + b^{\frac{2}{3}}}}, \sin\theta = \frac{OA}{AB} = \frac{b^{\frac{1}{3}}}{\sqrt{a^{\frac{2}{3}} + b^{\frac{2}{3}}}}

これらとl(x)の定義式から、求める長さは

  • l(\theta) = \frac{a}{\cos \theta} + \frac{b}{\sin \theta} = a \div \frac{a^{\frac{1}{3}}}{\sqrt{a^{\frac{2}{3}} + b^{\frac{2}{3}}}} + b \div \frac{b^{\frac{1}{3}}}{\sqrt{a^{\frac{2}{3}} + b^{\frac{2}{3}}}} = (a^{\frac{2}{3}} + b^{\frac{2}{3}})\sqrt{a^{\frac{2}{3}} + b^{\frac{2}{3}}}
    =(a^{\frac{2}{3}} + b^{\frac{2}{3}})^{\frac{3}{2}}

結構きれいな式になるものである。a = bのとき\theta = \frac{\pi}{4}(45度)、l(\theta) = 2\sqrt{2}aとなる。a, bの片方が他方に比べ極端に大きいときは、曲がり角でほとんど回転できないため、大きい方に近い値(広い方の廊下の幅に近い長さ)になる。

色覚異常(4) カラーユニバーサルデザイン

はてなで、カラーユニバーサルデザイン対応PCモニターのプレゼントキャンペーンが開催されている。自分のはてなダイアリーで「ナナオのカラーユニバーサルデザイン対応ワイドモニターが欲しい!」と書くと応募したことになる(これで応募完了)。

このモニター、色弱者でもわかるようなデザインをPCで作成するため、色弱者の見え方をシミュレートする表示モードに切り替えられるようになっているらしい。関連記事として以下が紹介されている。

きれいに色分けされた地図や建物の案内図、LEDの色が変わって状態を示すAV機器や携帯電話、アイコンや文字の色に機能を持たせたソフトウェアなど、日常生活で目にするさまざまなものに、色を使ったデザイン表現が使われています。それを見た人に分かりやすいようにと色を使って表現されているはずなのですが、実はそうしたデザインでかえって不便を感じている人も多いのです。

ITmedia News: 「カラーユニバーサルデザイン」って知ってますか?

この記事の中にピーマンの写真が2つあり、「(正常者と色弱者では)ピーマンの色の見え方もこんなに違う」と書かれているが、私にはほとんど区別がつかない。よーく見ると真ん中奥のピーマンだけはなんとか微妙に違う色に見えるが、他は全部同じに見える。長女に聞いてみたら全部違う色だと言っていた。

同じ色に見えるものを「こんなに違う」と言われてしまうと、自分は普通と違うのだということを改めて認識せざるを得ない。逆にいうと、これらの写真は色弱者の見え方をうまくシミュレートしているのかもしれない。ただ厳しいことを言えば、「こんなに違う」とだけ書くのは色弱者を読者として想定していない「カラーユニバーサルでない」書き方だとは感じる。どう違うのかテキストで補ってくれるとよかった。

人間の目の網膜には明暗を感じる「杆体」と色を感じる「錐体」という2種類の視細胞があり、さらに錐体には赤に反応するもの、緑に反応するもの、青に反応するものの3種類があります。これら錐体の有無や感度の違い・ずれなどによって色の感じ方に違いが出ます(詳しく知りたいかたはこちら)。
もっとも多いのは錐体が3つ揃っているC型色覚(一般型)で、日本人男性の約95%、女性の約99%以上がこの型です。次に多いのが緑に反応する錐体が無いか感度がずれているD型色覚(D型強度/D型弱度)で、日本人男性の約3.5%を占めます。その次に多いのは赤に反応する錐体が無いか感度がずれているP型色覚(P型強度/P型弱度)で、日本人男性の約1.5%を占めています。ここでは一般型以外、D型・P型などの型を持つ人を色弱者と呼びます。

同上

色覚異常(1) カーナビ」で書いたように私は赤緑色弱で、上記の分類でいうとD型だと思う。大学の時に受けた検査ではD1と書かれてあった。

C型(普通の人)、D型、P型の見え方をシミュレートした動画がYouTubeにアップロードされている(▲印をクリックすると再生できる)。

  • 色覚シミュレーション C型(一般型)

  • 色覚シミュレーション D型

  • 色覚シミュレーション P型


C型とD型を同時に再生してみると、これは一応違いがわかった。赤と緑に大きく変えてあるところがある。といっても、同じように見える部分で実は違っているところがあるのだろう。普通の人にどう見えるのかを知る方法がないのは残念である。

色覚異常(3) 発覚

私が子供のころは、小学1年の健康診断で色覚検査があった。色覚異常(1)でも書いた、石原式色覚検査表というやつ。小さな円が集まった模様の中の数字を読ませる検査である(サンプル ※2010.7.28 リンク先変更)。

この検査表、1つ目はいつも非常に見分けやすい模様で、たいてい"12"と書いてある(サンプル)。そして2つ目に早くも「ひっかけ問題」がある。普通の人には"8"に見えるが色覚異常者には"5"に見えるのだったかその逆だったか、とにかく見えたと思って答えると不正解という意地の悪い模様である。私はこの2つ目で間違え、3つ目以降は全く読めなかった。

ここで担任の先生と保健の先生が険しい顔になり、何か相談を始めた。そしてクラス全員の検査が終わるまで横で待つように言われた。私は自分の色覚異常について全く知らなかったから、何が起こったのかわからない。クラスメートが検査を受けているのを横で見ていると、ランダムにしか見えない模様を見てなぜかみんな数字を答えている。きつねにつままれたような気分だった。「自分だけ何かおかしいのか?」という疑念が頭をもたげる。

それでも私は狡猾にも、みんなが答えている数字を全て覚えることに成功し、二度目の検査ではそれらを答えて、保健の先生に「色は見えてるよね」と確認されたあと一応釈放となった。

しかし学校から両親に連絡が行ったらしく、後日母に連れられて眼科を受診した。当然色覚異常という診断だった。つい最近になって知ったのだが、両親は遺伝の関係で私に色覚異常の可能性があることを知っていたので、「心配していたことが現実になった」という状況だったらしい。

軽度の色覚異常の場合、それが判明するのはたいてい最初の検査の時であり、その場でまわりの人(この場合は小学校の先生)がどういう対応をとるかというのは結構重要である。石原式検査表の読めない児童がいたときにクラス全員が終わるまで横で待たせるというのは、おせじにもよい対応とは言えない。色覚異常であることが確認されたのだからそれを記録した上で、本人にきちんと話をしてくれるか、サラッと流して両親に連絡してくれたらよかったのだが。当時は色覚異常の認知度が今より低かったとはいえ、男なら20人に1人ぐらいの割合なのだから、平均してクラスに1人ぐらいはいたはず。少しでも慣れた対応をとってくれなかったのは不思議である。

現在では小学校の健康診断から色覚検査が廃止されている。しかしこれはこれでよいこととは思えないのである。

(つづく)

色覚異常(2) 伴性遺伝

いろいろなところに書かれていることであるが、まずは色覚の遺伝について。色覚は伴性遺伝と呼ばれる遺伝のしかたをする。

人間の遺伝情報は23対の染色体ペア(各ペアの片方を父親、片方を母親からもらう)の上に乗っており、そのうちの1対の性染色体がXYならその人は男性に、XXなら女性になる。子供の性別は父親のXYのうちどちらをもらうかによって決まる。Xをもらえば女性に、Yをもらえば男性になる。

色覚を決める遺伝子はこの性染色体に同居している。このように性別を決めるのと同じ染色体ペアで運ばれる遺伝を伴性遺伝という。

そしてここがポイントなのだが、色覚を決める遺伝子はX染色体のみにあり、Y染色体にはない。したがって男性の場合はXYのXの方にどんな色覚遺伝子が乗っているかのみによって色覚が決まる。女性の場合はXXの両方に色覚の情報があるが、片方でも色覚正常の遺伝子が乗っていればその人の色覚は正常になる。XXの両方が色覚異常のときのみその人は色覚異常になる(= 色覚正常が遺伝的に優性、色覚異常は劣性)。

X染色体のうち色覚正常の遺伝子を持つものをX、色覚異常の遺伝子を持つものをX'と書くと、以下の組み合わせが存在する。

保因者というのは女性にのみ存在する。色覚が正常な女性が保因者かどうかは色覚検査をするだけではわからない。

男性の場合は片方がX'になっているだけで色覚異常になるのに対し、女性は両方ともX'でないと本人の色覚は正常になるので、色覚異常者は圧倒的に男性に多い。ただし女性の2つのXのうち片方がX'だと保因者になるため、女性の保因者の割合は男性の色覚異常者より高い。日本人の中のこれらの割合はよく「男性で20人に1人、女性で500人に1人、女性の保因者は10人に1人」と言われるが、きちんを調査したらしき値の載っているページを見つけた。

このようなX連鎖劣性遺伝としてよく知られているのが色覚異常(color blindness)である。人種差があり、男性中の頻度は、一番低いのが北米のアメリカ・インデイアン1.1%であり、エスキモー2.5%、日本人4.4%、韓国人5.5%、メラネシア人4.6%、イギリス人6.7%、フランス人9%、ロシア人9.2%と報告されている。女性の色覚異常の頻度は男性の頻度を二乗した値である(日本人の女性では約0.02%)。

愛育ねっと2004年11月解説コーナー: 子は親にどこまで似るか

(最後の「日本人の女性では約0.02%」というのは「約0.2%」の間違いだと思う)

調査のしかたやどこまでを色覚異常とするかによって割合は変わると思うが、ここに書かれている通りだとすると、男性の色覚異常者が4.4%ということから日本人のX染色体の4.4%に色覚異常の遺伝子があると想定できる。女性の色覚異常者はその2乗で0.19%、女性の正常者(保因者でもない)は(100-4.4)%の2乗で91.4%、保因者が残りの8.4%ということになる。

これからすると日本人は男性の23人に1人、女性の520人に1人が色覚異常で、保因者は女性の12人に1人である。フランス、ロシアなどの国では色覚異常者も保因者ももっと多いことになる。
さて、上の書き方でいうと私の性染色体はX'Yである。それがわかったのは6歳の時だった。

(つづく)

色覚異常(1) カーナビ

昨年、家族で北海道に旅行に行った。札幌→洞爺湖→函館と移動し、函館では市内をレンタカーでまわった。妻はペーパードライバーなので、今のところ運転はもっぱら私の役目である。

最近のレンタカーには無料でカーナビがついていることが多い。方向音痴の私にはもはや必需品。自宅の車でも普段から完全にカーナビに頼って運転している。

ところが、函館で乗ったレンタカーのカーナビにはいささかてこずった。地図上で走るべき道を示す線とそれ以外の道の色が似ていて、運転中にパッと見た時に見分けがつかないのである。じーっと見ているとなんとなく見分けがついてくるが、運転中にそんなことをするわけにはいかない。

見分けがつかない原因ははっきりしている。私が赤緑色弱だからである。妻は全然問題なく区別できるという。多分赤っぽい色と緑っぽい色になっているのだろう。結局、曲がるたびにいちいち画面を指して妻に「この道?」と聞きながら運転することになってしまった。危なくてしょうがない。

私の色弱は軽度なもので、日常生活で不便を感じることはほとんどなかったので、カーナビの道の色が区別できなかったのはちょっとショックだった。

とはいえこれまでにも、たとえば電車の時刻表で赤の数字が急行、緑が準急になっている場合に色合いによっては両者が見分けられなくて困ったことが何度かあった。あと、Microsoft Wordなどで間違ったつづりやおかしな文を入力すると単語や文の下に波線が出るが、その波線に赤と緑の2種類あることに長い間気づかなかった。どちらのケースも私の感覚からは、なぜ赤と緑という区別しにくい色にわざわざしているのか理解に苦しむのだが、普通の人には特に問題ないのだろう。発光ダイオード(LED)の色分けのほとんどが赤と緑なのも困ったものである。青色ダイオードがもっと普及してほしい。

色覚異常の検査によく使われる石原式色覚検査表を用いると差は如実に表れる。検索してみると、石原式の画像を載せているページがいくつかあった。私の見え方は以下の通り。

これまで意識したりしなかったりしながらつき合ってきた色覚異常について、何回かに渡って書いてみたい。私はまあ大過なくやってきたのだが、以下のタイミングでは色覚異常を意識せざるをえなかった。

  • 発覚
  • 進学
  • 就職
  • 結婚
  • 子供への遺伝

これらを順に書いていこうと思う。

(つづく)

渡り廊下問題(2) 極限値

同じ階数の2つのビルの間を行き来する手段として、1階に加えて渡り廊下を1つ設ける場合にどの階が最も効率がよいかという問題の続き。ビルの階数に対する渡り廊下の最適位置の割合の極限値が気になるので、前回Perlスクリプトに計算させた「全ての移動の組み合わせに対する移動階数の合計」の一般解を与える式を求めてみることにした。こうなってくると、当初の「いつも使っている5階の渡り廊下は最適なのか」という問題を離れて、純粋に数学的興味である。

2つのビルの階数をnとし、渡り廊下をx階に設けるとき、片方のビルのa階から他方のb階に渡るときの最短経路は以下のように場合分けできる。

  1. a \gt xかつb \gt xのとき(出発階も到着階も渡り廊下より上)
    必ず渡り廊下を渡り、移動階数は(a - x) + (b - x)
  2. a \gt xかつb \le xのとき(出発階が渡り廊下より上で、到着階は渡り廊下と同じか下)
    必ず渡り廊下を渡り、移動階数はa - b
  3. a \le xかつb \gt xのとき(出発階が渡り廊下と同じか下で、到着階は渡り廊下より上)
    必ず渡り廊下を渡り、移動階数はb - a
  4. a \le xかつb \le xのとき(出発階も到着階も渡り廊下と同じか下)
    1階と渡り廊下のどちらを経由するのが近いかによりさらに場合分け
    1. (a - 1) + (b - 1) \le (x - a) + (x - b)つまりa + b \le x + 1のとき1階経由になり、移動階数は(a - 1) + (b - 1)
    2. a + b \gt x + 1のとき渡り廊下経由になり、移動階数は(x - a) + (x - b)

2.と3.の総和が同じになることを利用し、1, 2&3, 4-1, 4-2に分けてそれぞれ総和を求める。久しぶりにまとまった数式計算をしたのでめげそうになった。途中で「自然数の二乗の総和(\sum_{i=1}^k{i^2})」を求める必要があるのだが、そんな公式(\frac{1}{6}k(k+1)(2k+1))はすっかり忘れていた。ともかく全ての総和を足して整理すると、(1〜n階)→(1〜n階)のn^2通りの移動に対する移動階数の総和は

  • f(x) = -\frac{1}{3}x^3 + 2nx^2 + (-2n(n+1)+\frac{1}{3})x + n^2(n+1) (1 \le x \le n)

となる。前回作ったPerlスクリプトで、移動階数を地道に足していく代わりにこの式の値を使うようにしたら全く同じ結果になったので、正しそうである。計算量のオーダがO(n^3)からO(n)(xを1からnまで変化させるだけ)になり、劇的に速くなった。

さて、階数が十分大きいときに渡り廊下の最適位置がどのあたりにおさまるかを見るには、f(x)が1〜nの範囲のどこで極小値をとるかを調べればいいはず。f(x)微分すると

  • f'(x) = -x^2 + 4nx -2n(n+1) + \frac{1}{3}

これが0になる点を求めてみる。二次方程式の解の公式(これも久しぶりに使った)に当てはめ、1〜nの範囲に入りそうな解x_0を求めると

  • x_0 = 2n - \sqrt{2n(n - 1) + \frac{1}{3}}

で、求めたかった「ビルの階数に対する渡り廊下の最適位置の割合の極限値」は

  • \lim_{n\to\infty}\frac{x_0}{n} = \lim_{n\to\infty}\frac{2n - \sqrt{2n(n - 1) + \frac{1}{3}}}{n} = 2 - \sqrt{2} = 0.585786...

「階数が十分大きいときの最適位置は階数の0.586倍付近になりそう」と書いたが、めでたく正確な極限値がわかった。「e(自然対数の底)を使った式になるのだろうか」というのは全くはずれ。nxの三次式なので、eまで出てくることはないのだった。

渡り廊下問題(1) 最適位置

私がよく出張で行くところには7階建てのビルが2つあり、それらの間で行き来が多く発生する。そのため渡り廊下が1つ、5階に設けられている。

その渡り廊下を渡りながら、ふと「これが5階にあるのは最適なのか?」という疑問が頭をもたげた。

渡り廊下を設けるのは、上の方の階にいる人が隣のビルへ行くのにいちいち1階まで降りなくてもいいようにするためだが、あまり上につけると真ん中あたりの階の人が不便になる。ちょっと考えると、1階→1階、2階→2階、...、7階→7階という同じ階同士の移動の場合、5階に渡り廊下があれば、どの階からでも渡り廊下までの移動を両側でそれぞれ2階分以内に抑えることができる(4階〜7階からの移動は5階の渡り廊下を使う、1・2階からは1階経由、3階からはどちらを使ってもOK)。「おお、だから5階に作ってあるのか」と思ったが、よく考えると6階に渡り廊下があってもこの条件は満たされる(4階〜7階からの移動は6階の渡り廊下を使う、1階〜3階からは1階経由)。

そこで、同じ階同士でない場合も含めた全ての移動の組み合わせに対する移動階数の合計を求めてみることにした。つまり、(1〜7階)→(1〜7階)の移動49通りに対する「1階と渡り廊下を使った2通りの移動のうちの少ない方の移動階数」の総和を求める、という計算を行う。

例えば3階→4階の移動で渡り廊下が5階にある場合、1階経由だと2つ下がって3つ上がるから移動階数5、5階経由だと2つ上がって1つ下がるから移動階数3。したがって少ない方の3を採用。これを49通りの移動パターン全てについて足すのである。

Perlで書いて計算してみたところ、渡り廊下の位置(1階にある場合=渡り廊下がない場合も含む)に対する移動総数は以下のようになった。

渡り廊下の階 移動総数 平均移動階数
1(なし) 294 6
2 222 4.53
3 174 3.55
4 148 3.02
5 142 2.90
6 154 3.14
7 182 3.71

移動総数は5階が最小。やはり5階が最適だった。渡り廊下がない場合に比べ半分以下となり、平均移動階数も3を切っている。5階の次に優秀なのは6階ではなく4階である。

これで5階の渡り廊下をすがすがしい気分で利用できるようになったが、7階建てでないときのことも調べてみたくなる。2つのビルは同じ階数だとして、いろんな階数に対する最適な渡り廊下の位置は以下のようになる。

ビル階数 最適階 比率(最適階/階数)
2 2 1
3 2 0.667
4 3 0.750
5 4 0.800
6 4 0.667
7 5 0.714
8 5 0.625
9 6 0.667
10 7 0.700
20 12 0.600
30 18 0.600
40 24 0.600
50 30 0.600
100 59 0.590
200 118 0.590
300 176 0.587
400 235 0.588
500 294 0.588
1000 586 0.586
2000 1172 0.586
3000 1758 0.586

どうやら、階数が十分大きいときの渡り廊下の最適位置はその0.586倍付近になりそうである。階数を無限大に持っていったときの比率の極限値は正確にはどうなるのだろう。こういう極限値にはe(自然対数の底)が出てくることが多いが、この場合もeを使った式になるのだろうか。また、2つのビルの階数が異なる場合の最適位置とか、渡り廊下を2つ以上設ける場合のことについても考えてみるとおもしろいかもしれない。

(つづく)

運転中の携帯電話

以前自転車通勤していたころ、横断歩道を青信号で渡る時に横から曲がってくる車が突っ込んできてドキッとすることが時々あった。その時に運転手を見ると、かなりの確率で携帯電話で通話していた。

運転中の携帯電話の使用は2004年11月1日から法律で禁止されている。私も運転しながら通話したことが何度かあったが、注意力が散漫になってかなり危ない。なんというか、意識が回線の向こうの通話相手の方に飛んでしまうのである。

同乗者と話をするのに比べて運転中に携帯電話で通話するとなぜ危険なのかについて、大脳生理学的・人間工学的に明確な結論が出ているのだろうと思っていたが、検索してみるときちんと書いているサイトが見当たらなかった。以下のようなページは見つけたが。

われわれは、当実験結果から次のような推論をしている。まず自動車内では携帯電話の音声がひんぱんに途切れる(未発表データ)。音声が途切れると右頭頂葉が過渡的に活動する。それで聴覚的注意の資源が浪費される。自動車運転には視覚を主に用いるが、聴覚的注意も必要である。したがって音声の途切れが自動車運転を危なくさせる多くの原因のうちの1つになるであろう。

音声の途切れがひきおこす脳活動

「原因のうちの1つ」と書いているからそれだけではないとは言っているのだろうが、なんか違うと思うなあ。音声の途切れなんてそんなに感じないし、途切れなくても「意識が向こうに飛ぶ」ことによって危険な状態になっていると思うのである。そこを解明してほしいのだが。
そして、こんなことを主張しているページもあった。

そこで登場する優れものが「ハンズフリー装置」です。
実はこの法律には盲点というかポイントがあって「携帯を手でもって」というのが基本条件となっているのです。言い換えれば「携帯を手に持たない通話はOK」ということになります。
実際、警察庁のウェブサイト上でも「ハンズフリー装置を併用している携帯電話については…中略…規制の対象とはならない」との見解が掲載されています。

合法的に運転中でも携帯電話を使う方法が存在した!◆運転中の携帯利用で罰金は払うな(2/2)

道路交通法で禁止されているのは「運転中に携帯電話等を手でもって、通話のために使用したり、画像を注視する行為」であり、携帯電話を手で持たないハンズフリー装置を使えば違法にならないからハンズフリーで使いましょうという主旨だが、賛成できない。ハンズフリーでも携帯電話を耳に当てている場合に近いぐらい「意識が飛ぶ」ので危ないと思うのである。そこのところをきちんと検証せず、危険なことをさも解決策であるかのように書いてほしくない。同じ記事で

今回の法改正による罰則強化は、あくまで運転中の事故を防止するものです。運転中にハンズフリー装置を装着していて事故ったり…などというのでは本末転倒です。運転中に携帯電話を使うのであれば、罰金を払わない(捕まらないようにする)のはもちろんのこと、どうしたら安全に通話ができるかを考えて、時には車を止めて通話するなどしてケータイを便利に利用してください。

同上

とフォローしているが、「もちろんのこと」なのは「罰金を払わない」ことではなくて安全運転の方じゃないのか。

こんな記事もある。

IIHSの副会長でこの論文の執筆者の1人でもあるアン・マッカート氏は次のように話した。「ハンズフリーならそれほど気をとられないので、携帯電話を手に持って話すほど危険ではないと思われている。ところがわれわれの調査から、どちらの形でも危険であることがわかった」

運転中の携帯電話、ハンズフリーでも危険大

ほらほら、やっぱりハンズフリーでも危険ではないか。

携帯電話で話しながら運転すると危ないのは、我々の脳が通話先の相手を自分のまわりの環境の一部だと見なせないからだと思う。つまり、同乗者であれば自分が運転している車や道路と同じ環境の中にいると見なせるから、そこからの話し声を聞いて応対することと道路の状況に応じて車を操作することとを同時に処理することができる。しかし電話の向こうの声は自分のいる環境とは違うところから来ていると見なしてしまうので同時にきちんと処理することができなくなるのではないか。これが正しければ、ハンズフリーで通話していても電話である限り相手は別の環境にいると見なされるであろうから、やはり危険だということになりそうな気がする。このあたりを誰か大脳生理学的に解明していないものか。

Genographic Projectの分析結果

私のDNAの分析結果が出た。「Genographic Projectに参加」で書いたように、家族からの誕生日プレゼントとしてGenographic Projectに参加し、私の細胞のサンプル(頬の内側から採取)を送って分析してもらっていたのだが、Webで自分のIDを入力すると結果が見られるようになった。サンプルを発送してから49日。ちょうど7週間かかっている。

それによると私のY染色体は、M175と呼ばれる遺伝子マーカーによって定義されるHaplogroup O(オー)に属するらしい。haplogroupというのは、染色体中の遺伝子の組み合わせ(haplotype)によって特徴づけられる血統のグループといったところ。

このHaplogroup Oは東アジア(日本、南北朝鮮、中国など)に特徴的な血統で、東アジア人の80〜90%はこの血統に属する。そして西アジアにはほとんど存在せず、ヨーロッパには1人もいない血統である。

人類発祥の地であるアフリカ東部からM175(Haplogroup O)に至るまでの移住経路は図の通り(遺伝子マーカーの名前は私が挿入した)。以下のような順序で派生していったらしい。

  1. M168: 約60000年前にアフリカ大陸から移住し始めた人たちの血統。アフリカ以外で現存する血統は全てこのM168血統の子孫。「ユーラシアン・アダム」と呼ばれる1人のアフリカ人男性にさかのぼる
  2. M89: 約45000年前に北アフリカか中東でM168から発生。非アフリカ人の90〜95%はこの血統の子孫
  3. M9: 約40000年前にイランか中央アジア南部でM89から発生。北半球のほとんどの人はこのマーカーを持つ
  4. M175: 初期のM9血統のシベリア人から発生。約35000年前にシベリア南部を横断して東アジアに到達したあと氷河時代がピークに達して孤立したため、東アジアに特徴的な血統となっている

これはY染色体だけの分析結果だが、少なくとも私の父親父親父親の... をたどるとこういう移住経路になると思われるということである。

別の文献によると、日本人の中のHaplogroup Oの割合は約50%である。東南アジアから北上して日本に渡ってきたHaplogroup C(M130), D(M174)の人たちがかなり存在するため、日本では他の東アジアの国よりHaplogroup Oの割合が小さくなるようである。

今回注目していたことの1つとして、私が酒を飲めないこととの関係が何かわかるかどうかというのがあった。以前「下戸の系譜(1), (2)」でも書いたが、下戸の遺伝子は北部シベリアで発生した新モンゴロイドと呼ばれる人たちが持っていたと言われている。彼らは朝鮮半島を通って日本に渡来した、いわゆる弥生人である。M175もシベリアで発生したとのことであり、どうやらこれが新モンゴロイドの血統らしい。対してHaplogroup C, Dが古モンゴロイド(縄文人)に対応するのだと思う。私は新モンゴロイドの血統に属し、祖先の中に酒に弱い遺伝子を持った人がいたということだろう。

このプロジェクトの存在を知ったLife is beautifulのエントリを見ると、ブログ主の中島さんは遺伝子マーカーM122で特徴づけられるHaplogroup O3(Oの派生)に属するらしい。私の方はその前のM175で止まっていて、M122には派生していない。M122は稲作技術を発明した人たちの血統で、これは新モンゴロイドが稲作技術を日本に伝えたと言われていることとも一致する。それにしても、米を栽培して食べ始めた人たちの遺伝子マーカーが見つからずにその前で止まっているなんて、rice-addictの名がすたるではないか。なんかくやしい。

Genographic Projectに参加

今日は誕生日。ほしいものがないという話をメモブログに以前書いたが、やっとほしいものが見つかったので、家族からの誕生日プレゼントはそれにしてもらうことにした。といっても、ほしいものは正確には「物」ではない。

Life is beautifulの「DNA マーカー『M122』を持つ人は、お米が大好き!?」というエントリでGenographic Projectが紹介されていた。自分の体の細胞を採取して送ると、DNAを分析し、祖先の軌跡を教えてくれるというもの。人類はアフリカ東部で発祥したと考えられており、そこからどう移住してきたかがわかる。

といってもいろんな遺伝子の交配がなされて今の自分があるはずだが、このプロジェクトでは男の場合はY染色体の祖先をたどっていく。人間の性別を決める染色体ペアは男の場合XY、女の場合XXとなるが、このXYのうちのY染色体(父親から息子に伝えられる)を調べるのである。私の父親父親父親の...がどこからどうやって来たかがわかるはず。女性の場合はミトコンドリアDNAを分析するらしい。人間の細胞内のミトコンドリアには特別なDNAがあって、母親からだけ子供に伝わる。したがってこのDNAの分布を調べると母親の母親の母親の...の移住経路をたどることができる。この調査によって人類発祥の地がアフリカであることがわかった。いわゆるミトコンドリア・イブである。

Genographic Projectの日本語説明ページから検査キットを申し込んだ。分析手数料と送料込みで$126.5はかなり痛いが。キットは1週間もせずに送られてきた。中にある歯ブラシのようなもので頬の内側を1分ぐらいこすって粘膜の細胞を採取する。別に痛いことはない。これを8時間以上の間隔をおいて2回。添付の説明DVDで「強くこすってください」と言っていたので執拗にこすったら、口の中が荒れていたこともあって1回目は血がついてしまった。2回目はそうならないように慎重に強さを調節して大丈夫だった。念のためあとでメールで問い合わせてみたら、「少し血がついたぐらいなら細胞は採取できるから大丈夫でしょう」とのこと。万一検査が成功しなかった場合は申告すればやり直しのキットを無料で送ってくれるらしい。

2つの標本を、性別を記入した同意書とともにプロジェクトに返送すればOK。住所や名前は書かない。プライバシーも考慮して個人はキットに付与されたIDのみで識別され、プロジェクトのページでIDを入力すれば経過や分析結果が見られる。

マクロビオティックのブログの方で「下戸の系譜(1), (2)」という話を書いたことがある。酒の飲めない私は、北部シベリアの方から渡来してきた新モンゴロイドが持っていたALDH2不活性型(低濃度向けアセトアルデヒド分解酵素が働かない)の遺伝子を受け継いでいるはずである。それが結果に現れるかどうか?

また、Life is beautifulの中島さんと同じく、私もrice-addictを名乗っている通りの米好きである。稲作文化とともに継承されたM122を私も持っているのかどうか。

天皇陛下か皇太子・秋篠宮のどなたかにもやってほしいが無理だろうな。今話題になっている通り、天皇家は男系を保っているのだから、Y染色体の経路すなわち天皇家のルーツということになるはずだが。

こういうことを考えていると、分析結果が出るのがとても楽しみである。服やネクタイをもらうよりずっといい誕生日プレゼントになった。結果が出たらまたここで書きたい。