全脳科学帳

これを好む者はこれを楽しむ者に如かず

eが超越数であることの証明

 e (ネイピア数、自然対数の底)が超越数であることは、1873年にシャルル・エルミートによって証明された。つまり  e は有理数係数(整数係数としても同じ)の代数方程式の解とならない数である。その証明は相当ややこしい。

私はこの動画を観て自分のノートにまとめた。


eが超越数であることの証明

ここでは概要だけ書いておく。

 e を代数的数であると仮定する。するとある整数の組  a_0, a_1, \cdots , a_n (a_0 a_n \neq 0)に対して

 \displaystyle a_0 + a_1 e + a_2 e^2 + \cdots + a_n e^n = 0 \quad(*1)

が成り立つことになる。

さて、 f(x) I(t) J を以下のように定義する。

 \displaystyle f(x) = x^{p-1}(x-1)^p (x-2)^p \cdots (x-n)^p ( pは素数)

 \displaystyle I(t) = \int_0^t e^{t-x}f(x)dx

 \displaystyle J = -(a_0 I(0) + a_1 I(1) + \cdots + a_n I(n))

すると、 p が十分大きな素数(素数が無限に存在することは証明されているので、いくらでも大きくとれる)であるとき

 \displaystyle | J | \ge (p-1)! \quad(*2)

 \displaystyle | J | \le c^p ( c pによらない自然数)  \quad(*3)

がともに成り立つことが示せる。

ところがどんな  c に対しても、十分大きな  p をとれば  (p-1)! \gt c^p となるから、これは矛盾。 したがって、 e が代数的数であるという仮定が誤りであり、 e は超越数であるということが示される。

 e を代数的数と仮定して何か矛盾が生じればいいという戦略だが、証明は長い道のりだった。特に (*2) を示すには、補題を使ったり場合分けが生じたりしてかなり複雑である。いつもながら、こういうことを思いついた人はえらいと思う。

ここでいう補題というのは以下のもの。

補題
 f(x) を次数  m の多項式、 I(t) を上記で定義した  t の関数とし、

 \displaystyle F(x) = f(x) + f'(x) + f''(x) + \cdots + f^{(m)}(x)

とすると

 \displaystyle I(t) = e^t F(0) - F(t)

である。

これによって  J の式を簡単にした上で場合分けしながら計算し、「 (p-1)! で割り切れるが  p! では割り切れない」ことを突き止める。したがって  J 0 でない  (p-1)! の倍数なので、  | J | \ge (p-1)! となるのである。といっても、 e は代数的数であるというウソの仮定をすればの話。 J の式を簡単にする過程で(*1)を使っている。

背理法を使わないで証明しようとするとどうなるか。ウソの仮定を使っているのは (*2) の方で、(*3)は本当に成り立つので、「十分大きな p に対して  (p-1)! \gt c^p であるから、(*2)はすべての  p に対して成り立つわけではない」ことから(*1)が成り立たないことを導くことになると思う。