全脳科学帳

これを好む者はこれを楽しむ者に如かず

ABC予想の同値な表現

先月のことになるが、ABC予想が解決されたらしい、ということが報じられた。

www.asahi.com

大ニュース。どうやらこれはもう、証明されたと思ってよさそうである。

ところで、ABC予想が主張している内容にはいくつかの表現方法がある。

まず共通の事柄として、

  • 自然数 nに対して、 nの互いに異なる素因数の積(素因数分解して指数をすべて 1にしたもの)を nの根基(radical)と呼び、 \mathrm{rad}(n)と書く。
    例:  \mathrm{rad}(6) = \mathrm{rad}(2 \cdot 3) = 2 \cdot 3 = 6
     \mathrm{rad}(45) = \mathrm{rad}(3^2 \cdot 5) = 3 \cdot 5 = 15
  • 自然数の組 (a, b, c)で、 a \lt b a bは互いに素、 a + b = cであるもの(ABCトリプルという)を考える。

このとき、ABC予想は以下のように表現される。

ABC予想(表現1)
任意の \varepsilon \gt 0に対し、次を満たす (a, b, c)の組はたかだか有限個しか存在しない。
 c \gt \mathrm{rad}(abc)^{1 + \varepsilon}

ABC予想(表現2)
任意の \varepsilon \gt 0に対し、ある K(\varepsilon) \gt 0が存在し、すべての (a, b, c)の組に対して次が成り立つ。
 c \lt K(\varepsilon) \cdot \mathrm{rad}(abc)^{1 + \varepsilon}

ABC予想(表現3)
 (a, b, c)に対し \displaystyle q = \frac{\log c}{\log(\mathrm{rad}(abc))}とする。
( q (a, b, c)の「クオリティ(質)」という)
任意の \varepsilon \gt 0に対し、 q \gt 1 + \varepsilonとなる (a, b, c)の組はたかだか有限個しか存在しない。

これら3つが同値であるというのだが、なぜ同値になるのかがわからなかった。

 \mathrm{rad}(abc) cも自然数であるから、

 q \gt 1 + \varepsilon

 \Leftrightarrow \log c \gt (1 + \varepsilon) \log(\mathrm{rad}(abc))

 \Leftrightarrow c \gt \mathrm{rad}(abc)^{1 + \varepsilon}

となり、表現1と表現3が同値であることはすぐわかる。しかし表現2が表現1(あるいは表現3)となぜ同値になるのかは簡単ではない。

たかだか有限個しか存在しなければそれに合わせて K(\varepsilon)をとればいいので、表現1⇒表現2は明らか。しかし表現2⇒表現1となる理由がわからなかった。

このことを数学教室 和で質問したら、以下の記事を紹介いただいた。ここに「同値であることの証明」が載っている。

integers.hatenablog.com

なるほど! 任意の \varepsilon \gt 0に対して成り立つので、 \varepsilonより小さい \varepsilon' \gt 0でも成り立ち、それを用いて有限個であることを証明するのか。

これで、表現1〜3が同値であることはわかった。悩んでいた1と2の同値性がとりあえず自明なことではなさそうなのでちょっと安心した。

肝心の予想の証明は超難解らしいが、入り口だけでも理解できる解説書が出るといいな。